モーツァルト/クラリネット協奏曲

今年も残すところあと1か月を切りましたが、来年はモーツァルト生誕250周年にあたるメモリアルイヤーです。一方で今日は彼の命日にあたります。そんな今日は、モーツァルトが亡くなるわずか1か月前に残した屈指の名曲、クラリネット協奏曲 イ長調 K.622 をジャック・ランスロのクラリネット、ジャン=フランソワ・パイヤール指揮/パイヤール室内管弦楽団の演奏で。

神童や天才と謳われながらも36年という短い生涯だったモーツァルトですが、彼はよく「過渡期の作曲家」ともいわれます。あと20年早く生まれていればハイドンのように、貴族の宮廷や教会専属の音楽家として安定した生活の中で作曲に打ち込めただろうし、あと20年遅く生まれていればベートーヴェンのように、フリーの作曲家としての立場を確立して活躍できただろう、というのが理由のようです。

ちょうどモーツァルトが活躍した時期はフランス革命前夜。貴族の力が弱まっていく中、「職探しの旅」を繰り返しながら作曲を続けたモーツァルトの生活ぶりからは、あの天真爛漫な音楽性は想像しにくいところがあります。ただ、最晩年のこのクラリネット協奏曲には、そんな彼の内面をそっと垣間見るような、そして死を前にした悟りの境地を語りかけてくるかのような澄みきった旋律があります。

第1楽章はシンプルで落ち着いた明るさをたたえていますが、変わって第2楽章ではクラリネットがゆっくりとした静かな響きを紡ぎだし、それは本当に儚さすら感じる天上の世界のようです。ランスロのクラリネットとパイヤール室内管弦楽団の呼吸も素晴らしく、深く落ちついた静かな時間が流れていきます。そして第3楽章も軽やかな反面、時折忍び寄る暗い陰を感じつつ穏やかに幕を閉じます。

ジャック・ランスロのクラリネットは牧歌的な暖かい音色で、もともと深い落ち着きのある旋律と相まって天国のような雰囲気を作り出していますし、高音と低音の響きの違いがアクセントとなって微妙な陰影を作り出しているように感じられます。

この音楽は、仮にモーツァルトが早くも遅くも20年違って生まれていたら登場し得なかったかもしれません。そんな意味では奇跡の音楽という気がします。私にとっては大切にとっておきたい一曲です。
posted by stonez | 2005.12.05 22:59 | Comment(6) | TrackBack(1) | 音楽 - 協奏曲
この記事へのコメント
こんばんは。
TBいただきありがとうございました。
ランスロ盤、独特の味わいをもつ素敵な演奏ですよね。

>第3楽章も軽やかな反面、時折忍び寄る暗い陰を感じつつ穏やかに幕を閉じます。
なるほど。おっしゃるとおりですね。軽快なロンドという形式をとりながら、どこか悲しみの影を感じさせますよね。でも本当に素晴らしい作品だと思います。
Posted by romani at 2005.12.05 23:51
ランスロ、パイヤールは、以前聴いたときに、素晴らしく美しい演奏だった記憶があります。儚さを寄り引き立たせる(この点的を得た)演奏ですね。素晴らしいと思います。
モツアルトは私は、微笑み、笑いと哀しみの対比がでないとつまらないと思います。
Posted by yurikamome122 at 2005.12.06 00:39
>stonez 様
コメント&TB、有り難うございました。
欲望バトンも楽しませてもらいました^^。

モーツァルトのクラリネット協奏曲は、もう、最高の名品で、第2楽章など涙なしには聴けません。死の直前にこんな音楽が書けるんですね。
名曲やなぁと思います。
Posted by mozart1889 at 2005.12.06 05:55
romaniさん、どうもありがとうございます!
確かにおっしゃる通り軽快なロンド形式で、寄せては返す波のようにテーマがやってきますが、並みの引き際に垣間見える哀愁がなんともいえませんね。それにしても、本当に第2楽章は「白鳥の歌」としか思えない美しさですね。
Posted by stonez at 2005.12.06 12:39
yurikamome122さん、どうもありがとうございます!
私はこの演奏が初めてですが、美しく寂しさを感じました。なるほど、笑いと哀しみの対比ですね。どちらかというと笑い系の印象が強いのですが、例えばピアノ協奏曲24番や、交響曲25番のような雰囲気も好きです(^^ゞ
Posted by stonez at 2005.12.06 12:45
mozart1889さん、どうもありがとうございます!
欲望バトンの件では、私も拝見して楽しませて頂きました。息抜きになりましたでしょうか(^^ゞ
それにしても、この音楽は聴く場面を選ぶほどの名曲ですね。比較はできないかもしれませんが、私としてはベートーヴェンの葬送行進曲よりも、こちらの第2楽章という気がします。
Posted by stonez at 2005.12.06 12:53
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]


この記事へのトラックバック

モーツァルトのクラリネット協奏曲イ長調K.622 ジャック・ランスロ(Cl)/パイヤール
Excerpt: 冷え込んできました。低気圧に寒冷前線の通過。 冷たい雨も降りました。 一気に冬支度であります。 今日は松山へ出張。車中ではずっとモーツァルトを聴いていた。 特に良かったのはクラリネット協奏曲イ長調K..
Weblog: クラシック音楽のひとりごと
Tracked: 2005-12-06 05:56