シューベルト/交響曲 第8番「未完成」

シューベルトの"未完成"交響曲。耳なじみも良くて美しい旋律ですし、形式としては"未完成"だとしても"完成"されている曲のようです。私がシューベルトの交響曲で一番最初に聴いた曲でもあります。

この交響曲は、シューベルトがシュタイエルマルク音楽協会の名誉会員に指名されたことへのお礼として、ヒュッテンブレンネルという人を通じて協会へ贈る予定で、第2楽章までのスコアを渡したものの、このヒュッテンさんは残りの楽章を期待して机の中にしまい込んでしまって30数年もの間眠ることになった...
ということですが、途中までの楽譜を渡したりすることってあるのか疑問ではあります。シューベルトさんと、この机の中にしまった人との関係にもよるのかもしれませんが。それに、第3楽章のスケッチもあるそうですし、次の交響曲(第9番・グレイト)もその後作曲されてますしね。

まあ、"未完成"となった理由がはっきりしないことも含めて、すべてがこの曲の魅力、ということかもしれないと思います。とにかくこの2つの楽章が素晴らしかったから、"未完成"なのに評価された、ということでしょう。

というわけこの曲を、ジュゼッペ・シノーポリ指揮/ドレスデン国立管弦楽団の演奏で。第1楽章は、意味深で存在感のある序奏です。それに続いて、懐かしいようなほっとする旋律がやってくるものの、暗雲とともに寂しさをともなって閉じます。なんとなく、なんですがベートーヴェンらしい雰囲気も感じます。第2楽章は優しくてメルヘンチックですし、やっぱりメロディがとても耳なじみいいですね。最後は穏やかに幕を閉じます。強いところは強く、繊細な部分は抑えられていて、比較的聴きやすい演奏だったと思います。

指揮者のシノーポリさんは2001年に、歌劇「アイーダ」を指揮中に亡くなられたそうで、54歳と、指揮者としてはこれからということを考えると残念です。ちなみに、シノーポリさんは、デビューも「アイーダ」だったそうで、「アイーダ」に始まり、そして終わったという何とも運命的なものを感じます。

yurikamome122さんによる記事です。確かに第2楽章は「穏やかに始まり、穏やかに終わる」というイメージ通りだと思いました。
シューベルト作曲、交響曲第8番「未完成」
posted by stonez | 2005.05.29 02:36 | Comment(6) | TrackBack(4) | 音楽 - 交響曲

チャイコフスキー/交響曲 第5番

チャイコフスキーにとって、最期が迫る晩年に作曲された交響曲第5番には、「悲愴」や「マンフレッド交響曲」のように表題はついていませんが、一貫したテーマがあり、これは「運命の動機」だといわれています。交響曲"第5番"で、しかも"運命"・・・ときたら、やはり浮かぶのはベートーヴェンです。
ただ、私は「運命の動機」というのを最初は知りませんでしたが、度々登場する印象的な旋律なので、曲の主要なイメージだとは思っていました。とにかくこの"動機"は、装いを変えながら全ての楽章に登場します。

第1楽章は、さっそく序奏から「運命の動機」が短調であらわれます。その後は時に弱く、時に激しく不安で不穏な空気を作り出していきます。
第2楽章は変わって、美しくてドラマティックに展開するものの、暗雲のように例の"動機"が再登場。素直に楽観的にはなれない印象です。
第3楽章はワルツです。一般的にはスケルツォですが、バレエの曲でも有名なチャイコフスキーらしいところです。幻想的で、華やかで、でも少し切ない旋律です。その後再びあの"動機"がやってきますが、明るくゆったり、希望の兆しを感じさせます。
第4楽章は冒頭から"動機"です。控えめではあるけど、もはや曇りなく希望があります。そして徐々に展開していき、明るく堂々とした"動機"による勝利のファンファーレとともにフィナーレを迎えます。

曲の展開も含めて考えてみると、楽聖と謳われたベートーヴェンの「運命」とは全く無関係ではないかもしれません。ただ、それは全く気になることなく、チャイコフスキーらしいロマンティックで親しみやすい世界や、陰影のついた色々な表情が散りばめられているので、それが楽しめるのもこの曲の魅力だと思います。

この交響曲第5番を聴いたのは、リッカルド・ムーティ指揮/フィラデルフィア管弦楽団による演奏です。全体がよくまとめられていると思いますし、派手さは感じないものの、悠然としていて聴き終えた後はすっきり感があります。

この曲はいろいろな方が解説されていて、とても参考になりますのでリンクさせて頂きます。

ハイティンク指揮/アムステルダム・コンセルトヘボウ管による演奏を詳しく解説なさっています。いつもお世話になってます。
yurikamomeが言いたい放題にしゃべるブログ/チャイコフスキー作曲、交響曲第5番
クラシック音楽のひとりごと/ハイティンクのチャイコフスキー 〜〜 交響曲第5番

実際に演奏されている、おさかな♪さんによる解説、楽しい舞台裏のお話です。
おさかな♪の音楽日記/チャイコフスキー 第5番
posted by stonez | 2005.05.24 00:04 | Comment(6) | TrackBack(2) | 音楽 - 交響曲

メンデルスゾーン/交響曲 第3番「スコットランド」

ドイツ生まれのメンデルスゾーンは、作曲家では珍しく家庭環境や才能に恵まれていたそうです。当時のヨーロッパの良家の子息は、一人立ちするために外国旅行をして見聞を広めたそうですが、メンデルスゾーンもそうして海外を旅し、それが彼の音楽家としての生涯や作品に影響を与えたようです。

先日とりあげた交響曲第4番「イタリア」は、彼がイタリアを旅したときに生まれたといいますが、今日は、彼がスコットランドを訪ねた時にインスピレーションを受け、その後じっくり12年の歳月をかけて作曲された、交響曲第3番「スコットランド」です。
この曲を聴いてみると、「イタリア」のように暖かくて、すがすがしいという雰囲気はありません。逆に、冒頭から何ともしめやかに演奏されていますし、どこか荒涼とした寂しさのようなものを感じたのでした。

イギリス北部に位置するスコットランドは、悲劇の女王メアリ・ステュアートの地としても知られています。
女王メアリは、生後間もなくスコットランド王として即位し、しかも若くしてフランス国王のもとに嫁ぎ、フランス王妃兼スコットランド女王となりましたが、早々に死別して帰国。その後は宗教を巡る争い、権力闘争に翻弄されながらもスコットランドを治めましたが、遂に反対派に追われてイングランドに逃れ、エリザベス女王に保護を求めました。

しかし、当時のイングランド国王であるエリザベス女王とは血縁関係にあり、イングランドの王位継承者でもあったメアリは、エリザベス女王暗殺陰謀の容疑をかけられて20年近くも幽閉された後、斬首刑とされてしまったのです。

メンデルスゾーンは、この悲劇の女王ゆかりの地をたずねてまわり、女王にまつわる数々の悲劇の舞台となったホリルード宮殿と、廃墟となった修道院を訪れたときに、この交響曲の着想を得たといいます。

この話を知ってから改めてじっくり聴いてみると、この第4番「スコットランド」の持つ物悲しさや荒々しさは、運命にもてあそばれ波乱の生涯を送った、スコットランド女王メアリの生涯そのものという気がしてなりません。
それに、よせてはかえす運命の荒波をイメージするのは、全部の楽章がソナタ形式で書かれていたり、全部の楽章が途切れることなく演奏されているからかもしれません。
でも、悲しい中にも時に美しい表情が垣間見えたり、素朴で明るい異国情緒が感じられたりと、聴けば聴くほど味が増し、惹かれていきます。

メンデルスゾーンの交響曲第3番「スコットランド」。私がこれからもこの曲を聴いていく中で、さらにいろいろな表情を見せてくれるんじゃないかな、と思います。そして、そう思わせてくれたメンデルスゾーンと、オットー・クレンペラー/フィルハーモニア管弦楽団の演奏を聴いてよかったと思います。
posted by stonez | 2005.05.19 21:50 | Comment(6) | TrackBack(3) | 音楽 - 交響曲

メンデルスゾーン/交響曲 第4番「イタリア」

なんでも、今日は松尾芭蕉さんが、あの"奥の細道"に旅立った日ということで、「旅の日」だそうです。

旅といえば、今時大袈裟に言うほどのことでもないですが、私はたった一度だけ海外に行ったことがあります。新婚旅行で行った南イタリアです。初めての海外がいきなりヨーロッパということで、ちょっと贅沢でした。

あの透き通った空に蒼々とした海。片言の挨拶でも喜んで応じてくれる、飾らない人々の暖かさ。お金と機会が出来たら是非また行きたいと思わせるようなところでした。

さて、イタリアといえば、メンデルスゾーンの交響曲 第4番 「イタリア」。先日のN響アワーでアンドレ・プレヴィンさんの軽やかな演奏を楽しみましたが、第2楽章がカットされていましたので、改めて聴き直しました。

オットー・クレンペラー指揮/フィルハーモニア管弦楽団による演奏です。何が凄いかって、このジャケット写真です。これは偉大な人にしか許されないアングル、これで偉大じゃなければおかしいくらいです(笑)。それに、その解説書にある文章がまた凄い。引用させて頂きますと、
もしも(メンデルスゾーンの)標準的な名演奏を求めるならば、なにもこのディスクでなければならない、ということはないはずだ。 (中略) それにもかかわらず、このディスクをあえて手にしたというのは、これがほかならぬクレンペラー指揮による演奏であるということに起因しているといえるのではあるまいか。

やっぱり...何かあるお方だと踏んだ私は、さっそくこの「クレンペラーのメンデルスゾーン」を聴いてみることにしました。もちろん初めてのクレンペラーさんなんですが、聴いてみると、なんかこう、厚みがあるというか、聴き応えがあります。

第1楽章は、イタリアのすがしい景色と晴天をイメージするような、軽やかなメロディです。昔聴いたことのある好きな旋律でした。
第2楽章は、短調の旋律なのですが、程よいテンポなので不思議と暗い感じはしません。
第3楽章はのどかで牧歌的な風景が見えてくるようです。時折遥かアルプスが見えるようなホルンの音色も楽しめます。
終楽章はサルタレロというローマ周辺で流行った舞曲だそうですが、情熱的なメロディです。

イタリアをいろいろな面から聴かせてくれ、是非また行ってみたいと思わせてくれるような、そんな「イタリア」でした。
posted by stonez | 2005.05.16 23:04 | Comment(9) | TrackBack(3) | 音楽 - 交響曲

ベートーヴェン/交響曲 第5番「運命」

クラシック音楽を代表する1曲といえるでしょう。「ジャ、ジャ、ジャ、ジャーン」の旋律は子供から大人まで、誰もが知っています。にもかかわらず、それ以外のところは専門家さんや、クラシックファンを除いてはおそらくほとんど聴かれていないのではないでしょうか。

このインパクトのある旋律を、ベートーヴェンさんが「運命がこんな感じで扉をたたく」などと表現したところから、後世の人に"運命"と呼ばれる事になったそうですが、それに加えテレビCMや効果音としてウケ狙いやパロディ目的で、この冒頭部分が使われてしまった結果、それが曲全体のイメージとして一人歩きしてしまった、というのもあるような気がします。"運命"と、「ジャ、ジャ、ジャ、ジャーン」があまりにマッチしすぎたのかもしれません。
これは<或るクラシックファンの雑記>さんでも触れられていますが、私も同意見です。ご参考までに。

そんな先入観のために、この曲の本当の良さが知られていないのは、なんとも残念なところです。
私も今まで聴いていなかった若気の至りでした。ああ、もったいなかった!でも、聴いてみてびっくり。「ジャ、ジャ、ジャ、ジャーン」だけじゃないんです...聴いてみて、抱いたイメージはこんな感じです。(大丈夫かな...笑)
第1楽章:運命を受け止め、苦悩に明け暮れる。
第2楽章:でも冷静に受け止め、楽観的に捉えようとする。
第3楽章:危機感を持ちながらも模索を続ける。
第4楽章:光が差し込み、希望に満ち溢れてフィナーレ。
第3楽章の終わりは不穏で緊迫感に満ちていているのですが、その短調から第4楽章の長調に切り替わったとたんに一気に突きぬけて、ためていた苦悩を放出するような様子は、それはそれはもうドラマチックです。
この曲の本当のすばらしさは、ここにあるのではないでしょうか(^^)
聴覚の衰えを通して「運命を受け止め、模索しながら希望を見出そうとする」ベートーヴェンの生々しい生き様を想像します。作曲された時期も、聴覚の衰えが元で遺書を書いてから5年くらい経ち、全盛期(傑作の森)だったということで、もっとも創作意欲に満ちていた頃だったでしょう。

この曲は、先日他界された巨匠クライバーさん/ウィーンフィルの演奏でじっくり聴きこみました。オーケストラとの一体感があって聴きやすいです。録音状態もいいのだと思いますが、音がクリアで美しく、楽器それぞれの音がクリアに聴こえてきます。
それから、世界のオザワさん/SKOの演奏でも楽しみました。こちらは「圧倒的な推進力」とジャケットにもある通り、演奏にほどよいスピード感と勢いがあって、聴いているとそれが気持ちよさにつながります。

ぜひ一度、最後まで聴いてみてください、"運命"が変わること請け合いですよ♪

『ベートーヴェン:交響曲第5&7番』

指揮:カルロス・クライバー
演奏:ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団




『ベートーヴェン:交響曲第5番ほか』

指揮:小澤征爾
演奏:サイトウ・キネン・オーケストラ



posted by stonez | 2005.04.24 02:23 | Comment(6) | TrackBack(2) | 音楽 - 交響曲

ベートーヴェン/交響曲 第7番

とにかく軽快な曲です。気持ちを高揚させたいときにはうってつけです。
かのリストさんは「リズムの神化」と言ったそうです。はたまたワーグナーさんは「舞踏の聖化」と言ったそうです。 そういった賛辞が物語るように印象的なリズムが多用されていますし、なによりこの曲の特徴は、第1楽章の序奏以外は全て速いテンポで、というのが指示されていることです。

ちなみにこの曲は、充実した中期(傑作の森)の後、深刻なスランプに入っていたベートーヴェンが、それを打破して第九につづく晩年の重要な作品を生み出し始めた頃の作品です。

第1楽章(イ長調):ポコ・ソステヌート(少し保った長さで) → ヴィヴァーチェ(活発に速く)・・・荘厳でゆったりとした曲調で始まった後、変わって徐々にスピードアップし舞踏の世界へと入っていきます。

第2楽章(イ短調):アレグレット(やや速く)・・・実際はそれ程速くないのですが、はかなくも美しい旋律で、"不滅のアレグレット"と呼ばれているそうです。「ター、タ、タ、ター、ター」のリズムが一貫して使われています。

第3楽章(ヘ長調):プレスト(急速に) → アッサイ・メノ・プレスト(より急速に)・・・テンポとリズムのよい舞踏に入っていきます。徐々にスピードアップします。

終楽章(イ長調) :アレグロ・コン・ブリオ(快活に速く)・・・「タンタカタン、タンタカタン」のリズムで始まり、また多用されています。舞踏と緊張感は盛り上がりを増していき、最高潮を迎えて終わります。

このように、曲が進むにつれて徐々に激しさを増していき、第4楽章などはテンポも速い上に一定のビートを刻みながらヒートアップしていきます。盛り上がった宴会のようだ、というのも頷けます。さながらロックな感じです。

この曲は、クライバー/ウィーン・フィル、カラヤン/ベルリン・フィル、小澤征爾/SKO の順番に聴いていきましたが、それぞれに持ち味があって楽しめました。クライバーさんは音が美しく、バランスが取れていて聴きやすく上品な感じがしました。洗練された...という表現はこういう演奏を言うのでしょうか。
カラヤンさんは音楽そのものがしまっていて、心地良く聴けます。オケもテンポも見事に統率されているというのも聴いていて分かります。録音状態はこの中で一番よかったと思います。

その中で最も興奮させてくれたのはオザワさんでした。
なによりも、ライブ録音というのが大きいです。この曲の持つドライブ感を味わうならライブ以外にないと思うからです。テンポも軽快、曲が進むにつれてどんどん躍動感と重低音も増していきます。フィナーレを迎えて曲が終わる間もなく、聴衆による歓声が漏れて興奮に包まれる様子も、大いに鳥肌を立たせてくれます。多少音がこもった感じがするのも気にならないくらいよかったです。

この曲はきっとコンサートでは盛り上がるでしょう。
CDだけじゃなくて、生演奏を聴きに行きたいと強烈に思わせる一曲です。

『ベートーヴェン:交響曲第5番&第7番』

指揮:カルロス・クライバー
演奏:ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団




『ベートーヴェン:交響曲第7番』

指揮:ヘルベルト・フォン・カラヤン
演奏:ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団




『ベートーヴェン:交響曲第7番』

指揮:小澤征爾
演奏:サイトウ・キネン・オーケストラ



posted by stonez | 2005.04.13 00:51 | Comment(4) | TrackBack(4) | 音楽 - 交響曲